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視点

 

「大将! 侵略者です!」門番がいつものように報告に来た。

「またがあ」

「大将、早く来て下さい!」

「お前たちだけでなんとかならんのがあ」

「今回の侵略者はいつもよりも手ごわそうです! 我々では手に負えないと思います! 大将、どうか助けを!」

「仕方ない。わがった。すぐ向がう」

 

――この島には、山ほどの財宝がある。この財宝は、大昔、先祖が島の外に冒険に行き、外の国から持って帰ってきたものだと伝えられている。

 だが、それ以来、後を絶えずに国の外からその財宝を奪いに侵略者がやってくるようになった。しかし、歴代の大将によってその財宝は代々守られてきた――

 

 門番の家来はいつも弱気だ。だが、その分報告はいつも早い。まだ、侵略者は上陸していないだろう。

 俺は、重たい腰をゆっくりと上げ、椅子から立ち上がった。家内に、行ってくる、と伝えて城を出た。

 

 城の外は、いつもと変わらない平和な風景が広がっていた。爺爺や婆婆が畑を耕していた。その傍らでは、子ども達が笑い声をあげながら追いかけ回って遊んでいた。子どもの母達も立ち話を楽しんでいた。

 

「あら、また侵略者なんだってねー」畑の横の道を通ると婆婆が汗を拭いながら声をかけてきた。

「ああ。そうなんだ。ちょっくら追い払ってくらあ」

「いつも大変ねー。よろしく頼みますよ。大将」

 ああ、と返事をし、俺は家来達がいる訓練場に向かった。

 

 訓練場に着くと、家来たちはちょうど休憩をしているようだった。

「おい、また侵略者だ。いぐぞ」俺は言った。

「またですかー。あーめんどぐせー」

「つべこべ言わず行ぐぞ。今回は手ごわいらしい」

「いつもと同じじゃないでずか。門番は臆病なんでずよ。まあ仕方ねえ。行くぞおまえら!」

 オスッ、と他の家来たちは返事をした。俺は家来達を引き連れて島の入り口に向かうため走りだした。

 

 島の入り口付近まで来きたところで、ドン、ドン、ドン、ドンという門を叩く鈍い音が聞こえてきた。

 もう少し門に近づくと、その門を一所懸命に押さえている家来達の姿が見えた。

 

 ふと門の上の方に何かが見えた。

 

 鳥だ。

 

 その鳥は、門を抑えている門番達の方へ急降下した。

 そして彼らの目をその鋭いくちばしでつつきまわした。

「ぐわぁ」

 あっという間に、鳥は門番全員の目をつつきまわし、門番達は目から血を流し、倒れ込んでしまった。いつもとは様子が違かった。いくら門番とはいえ、こんなにすぐやられてしまうことなんて今までになかった。

 

 そうしている間に、門の上の方にまた何かが見えた。

 今度は猿だった。

 

 猿は、門の上から飛び降りた。

 そして倒れている家来を横に、内側から門を開けられてしまった。

 

 俺たちは、ようやく門に辿りついた。

 そこには、鳥と猿のほかに、犬と人間がいた。

 

「なんの用だあ。悪いことは言わぬ。帰れ」俺は奴らに向かって言った。

「桃太郎さんが、お前たちを成敗においでになったのだぞ」と犬がそう言うと、奴らは、わあッ、と声をあげ、俺たちに向かって走り出した。

「仕方ない。奴らを島の外へ追い返せえ!」俺が家来達に向かってそう言うと、おおッ、と家来達は声をあげ、奴らに立ち向かった。

 奴らは4人だ。すぐに追い返せるだろう、俺はそう思った。

 

 しかし事はそう上手くは運ばなかった。

 鳥の動きが早く、家来達は、鳥を目がけ金棒を振り回すが全くあたらなかった。

 鳥は金棒を上手く避け、そして家来達のスキを突き、目を潰した。

 そうしている間に、半分以上の家来は、鳥に目を潰され倒れてしまった。

 倒れた家来達に追い打ちをかけるように、犬は鋭い歯をもって噛みつき、猿は鋭い爪をもって切り裂いた。

 

 人間は、他の家来など見向きもせず俺の方に向かってきた。

「お前が大将だな」

「ああそうだ。なぜこの島に来た」俺は答えた。

「お前を成敗してやるためだ」

「俺たちが何をしたというんだ。帰れ」

 俺が人間に意識を集中させていると右足に激痛が走った。死角から犬に噛みつかれたようだ。

 俺が膝まづくと、そのスキを突くかの如く、俺が持っていた金棒を猿に奪われてしまった。

 人間は、俺が金棒を手放したと思うと一気に懐に突進してきた。

 人間の肩が勢いよく、俺の腹に入った。

「うっ」

 俺はその勢いで後ろに突き飛ばされてしまった。

 体制を立て直し、俺も人間に突進した。

 人間は思ったより力が強かった。取っ組み合いになり、押し合った。

 今までの侵略者とは異次元の力の強さだった。

 俺は押し負け、後ろに倒されてしまった。

 人間は俺の上に馬乗りになり、俺の首を絞めつけた。

 振り解こうとするが、力が強すぎる。

 意識が朦朧としながらも、辺りが見えた。

 もう、他の家来も戦える者はいないようだった。

 こいつらは強すぎる。

 これ以上、島の中には入らせるわけにはいかない、俺はそう思った。

「どうだこれでも降参しないか」人間がそう言うと、首を絞める力はさらに強くなった。

 もうこれ以上こいつらに対抗するのは無理だ。

「降参だあ。だが、皆の命だけは助けて欲しい。その代り、島の宝は一つ残らずやる。それで許してくれ」

 人間は俺の提案に乗ったようだ。

 そこにはもう俺以外に動けるものはいなかった。

 俺は城まで戻り、今まで歴代の大将に守られてきた財宝を運んできた。

 人間たちは満足した様子で、その宝を持って、船で帰っていった。

 

参考:桃太郎

 http://www.aozora.gr.jp/cards/000329/files/18376_12100.html

 

 

吾輩は魔法使いである

 吾輩は魔法使いである。

 

 普段はしがないサラリーマンをやっている。

 周りの者は、私が魔法使いであると薄々気が付いているのかもしれないのだが、なんとなく恐れているのだろうか、私に魔法使いなのかと聞いてきた者はいない。

 

 私は、先週でこの会社に入って9年と3か月、これまで大きな失敗もなくやってきたこともあり、ついに課長に昇進することが出来た。

 この会社では、私の年齢での課長への昇進は過去に前例がなく、周りからは将来の役員候補とも言われたほどだ。

 もちろんこの昇進に魔法など使っていない。

 真面目に働き続けたことがこの結果に繋がったのだと自負している。

 私には家族もいないし友人もいないし、もちろん魔法使いの友達もいない。特にこれといった趣味もない。仕事をしていないと、周りに何もない空虚な現実を直視してしまい、巨大な虚無感に襲われてしまう。

 仕事に没頭することで、この虚無感から逃げることができ、満たされることが出来るのだ。

 だから真面目に働き続けることは必然であり、これからも真面目に働き続けることになるだろう。

 

 さて今日は、私の昇進祝いとして近隣の部署を含めた総勢50名程度のやや規模の大きい飲み会が開催される。

 私は、酒は好きだが、社交性は皆無だ。

 魔法使いというのは大概社交性はない。

 普段であれば、この規模の飲み会には絶対に参加しないが、なんといっても今日は私の昇進祝い。さすがに参加しないわけにはいかない。

 そうはいってもこの会社の人間は飲み会が大好きで、何かしら理由をつけて飲み会をやりたがる。

 今回も飲み会をするための理由として私の昇進が利用されただけだろう。

 しかし、利用されたとしても昇進祝いは昇進祝いである。悪い気はしない。

 

 

 飲み会には本部長までもが参加したが、一応主役である私は一番の上席に座らされた。

 お酒が皆にいきわたると、本部長からの挨拶が始まった。

「皆様お疲れ様でございます。本日は白井くんの昇進祝いということですけれども、白井くんの年齢での課長への昇進は今までに前例がないほどのスピード出世でございます。まずは白井くんにお祝いの言葉を言いたいと思います。白井くん本当におめでとう」

 私に向けられた言葉に軽く会釈で返す。

「課長になると今までよりもさらに仕事への責任が増して大変になろうことと思いますが、その責任に比例して裁量が増えて楽しくなってくることもあろうかと思います。ぜひ、今までと同じように、いや今まで以上に頑張っていただいて、ささっと役員になって頂きたいと思います。今後の仕事ぶりに期待しております。さて、スカートとスピーチは短いほうが良いと言いますとおり、だらだら話しても仕方がありませんので、私の話はここまでにして、せっかくなんで今日の主役である白井くんから乾杯のご挨拶いただきたいと思います」

 こういった挨拶にはもちろん慣れておらず、短い挨拶であろうと少し不安だった。

「えー、本日は私のためにこのような会を開催していただきありがとうございます。えー、私がこうやって課長に昇進できたのも皆様のおかげでございます。今後も何かと皆様のお力に頼ることも多かろうとございますが、引き続きよろしくお願いします。えー、皆様ご存じのとおり、私は話すのが苦手ですので、挨拶はこのへんにして乾杯に移りたいと思います。皆様グラスを掲げていただけますでしょうか。それでは、当社のますますの発展と皆様のご健闘を祈願しまして、乾杯!」

 乾杯をして飲み会が始まると、多くの社員がおめでとうございますと挨拶に来てくれ、その度に乾杯した。そのせいですぐに酔っぱらった。皆が私の昇進を祝ってくれ、私の昇進の早さを褒め称えてくれた。褒められすぎたせいで、今日の自分はいつもの自分よりもなんだかイケているような気がした。時間はあっという間に過ぎ、1次会が終わった。普段だったら行かないが、今日は楽しかったから、2次会にも行った。

 2次会では、私は、男2人、女1人の若手社員3人に囲まれる卓に座ることになった。私の隣に座った女性社員の松本は普段は真面目で清純で、さらには端正な顔立ちであり、誰もが好感を抱くような女性であったが、今は普段の清純さは感じられないくらい酔っぱらっているようだ。私に寄りかかってくるし、ボディータッチも結構な頻度でしてくる。こういうのには慣れていないが気分は良かった。私も浮かれてお酒が進んだし、若手の飲みっぷりも良かった。私を含めた4人で日本酒一升が空いた。

 2時間くらい経ったところで、2次会も締められたが、隣に座っている松本が「もう一軒いきましょうよー」と言ったのをきっかけに、その卓に座っていた男性社員の石川との3人で、もう少しだけ飲むことになった。

 3人とも泥酔していた。

 3軒目に入って2杯ずつくらい飲んだところで、松本が卓上で寝て始めてしまった。

 日中の真面目で清純な彼女の姿からは想像が出来ないような、だらしない女性に見えた。私と石川も泥酔していて疲れ果てていたので、解散することにした。

「すみません。終電ぎりぎりだったみたいでここで失礼します」

 私が会計をしていると石川はそう言って走って帰っていってしまった。

 会計が終わり、店の待合室に行くと、松本が寝ていた。

「終電あるの?」と彼女を起して聞いた。

「もうないでしゅー」彼女は赤ちゃん言葉で言った。相当酔っぱらっているようだ。

「わかった。これで帰りな」と1万円札を彼女に差し出した。

「ええー申し訳ないでしゅー。申し訳ないので白井さんちに泊まりまーす」

 彼女は、部署は違えど会社の後輩だ。しかも日中は真面目な女性だ。そんな子をうちに泊めて、変な噂でも回ったら大変だ。泥酔しながらも理性が勝った。

「さすがにうちに泊めるわけにもいかないから、タクシーで帰りなさい」

 再び1万円札を差し出した。

 彼女はきれいな目で私のことを見つめた。

 そしてニコッと笑って、私の腕に抱きついた。

「白井さんちに泊まりまーす」

 理性が負けた。

 3軒目から自宅までは、タクシーで10分くらいであったが、その間も彼女は私の腕に抱きついてきた。

 家に着いた。

 部屋に入るなり、彼女は私のベッドに飛び込んだ。

 こんな状況、私の人生でこれまでになかった。

 そしてこれからもこんな状況に巡りあえないかもしれない。

 このチャンスをみすみす見逃すわけにはいかない。

 

 私はとりあえずうがいをしに洗面所に行った。

 うがいをして顔をあげると、老け顔で崩れた顔立ちの冴えない男が鏡に映っていた。

 昔から、自分の顔にコンプレックスを抱いていた。

 私が女だったら、こんな男と一緒に寝たくないと思ってしまった。

 

 しかも彼女は普段は真面目な女性であり、貞操観念は強いほうだろう。

 今日は酔っているだけだ。

 素面に戻った時に、気持ち悪い会社の先輩と寝たことを後悔し、訴えでもしたら大変だ。

 そうなった時には、事実はどうであれ、絶対的に私は不利な立場になるだろう。

 課長になったばかりだ。

 一瞬の快楽のために、降格なんてできない。

 いや、降格どころではなく、クビすらもあり得るかもしれない。

 

 

 欲望を抑えつけ理性が勝った。

 私は、押入れにしまってあった布団を出し、床に敷いて寝ようとした。

「あれ、白井さんは下で寝るんですかー?」彼女はまだ起きていたみたいだ。

 私を誘うその言葉に欲望が爆発しそうであったが、理性が辛うじてそれを抑えつけた。

「うん」

 もう今日はもうこのまま寝ると決意したのだ。

 

「意気地ないですねー」と彼女は笑いながら言った。

 私を挑発するようなその一言に多少イラッとした。

 

「そういえば白井さんって本当に童貞なんですかー?」

 図星を突いたその言葉に返す言葉を見失い、その場に一瞬沈黙が流れた。

「それ誰から聞いたの?」と私は言った。

「みんな言ってますよー。てか、ほんとに童貞なんだー。もう白井さんって30歳過ぎてますよねー?」

「31だけど」

「ウケるー。いつ童貞卒業するんですかー?」

「卒業できる時期が決まってたら苦労しないだろ」

 私の言葉に彼女の返答はなかった。少しするといびきが聞こえてきた。

 彼女は、私をイライラさせるだけイライラさせ、欲望を掻き乱すだけ掻き乱して寝てしまった。

 イライラと欲望を抑えながら私も寝た。

 

 翌朝、私は7時に目を覚ました。

 ベッドを見ると彼女の姿はなかった。

 この部屋がいつにも増して空虚な空間に感じた。

 いつになれば童貞を卒業できるのだろう。

 誰もいないベッドを見つめながらそう思い、またつまらない日常が始まった。

 

 吾輩は魔法使いである。経験はまだない。